このページはeddy line echoのcoating centreを日本語訳したものです。Scott Sympsonの了解を得て掲載しております。


カヌースラロームのためのトレーニングについて

ジミー−ジェイス

訳:辻 俊之(Young Paddlers Fukui)

スラロームのテクニックをある程度のところまで身につけたら、競技として更に進歩するには身体の準備をしていくことに細かく気を配る必要がある。時間とやる気があれば、練習はたくさんできるが、いくつかの大きな間違いに陥ることが往々にしてある。まず何といっても、ハードな(無酸素運動の)トレーニングをやり過ぎて、回復が十分にできない、ということがあげられる。

われわれがコーチしている選手たちの場合でも、有酸素運動と無酸素運動のトレーニングの日をうまく振り分けて、それぞれのトレーニングの疲労をきちんと回復させることが大きな課題になっている。トレーニングのし過ぎとそれによる悪影響を避けることは極めて重要である。

 

無酸素のラクティック(乳酸運動)トレーニング

無酸素運動のセッションにはいろいろな方法があって、シーズン前シーズン中のフル・ランから、他の時期に行うもっと短距離の集中練習まである。多くの選手は、無酸素運動の練習日には無酸素のセッションを1セッション以上やり、向上するために必要な負荷を身体にかけている。このセッションは疲労の面でもきちんとバランスをとる必要がある。半分のセッションを1日に2回やってもよいし、ウェイトトレーニングの反復でもよい。また、こうした無酸素運動の練習日の後には、乳酸を溜めないセッションを行う日を設けること。

無酸素運動の能力を高めるには、優れた有酸素運動能力も必要である。乳酸を溜めない(有酸素運動の:訳注)練習日のセッションは、無酸素に切り替わる境界付近かそれ以下のレベルで行うわけだが、検査(コンコーニテスト)により無酸素に切り替わる境界のレベルを把握し、脈拍数を目安にする。セッションの長さは30〜40分とし、その中で3分から20分(試合が近づくに合わせて伸ばしていく)の長さのメニューを、レストを1〜2分だけにして行う。

ATP−CPトレーニング

このほか有酸素運動の練習日には、1〜2分の長めのレストをはさんで5〜15秒の高負荷の練習を行い、ATP−CP消費系を強化するセッションも行う。これは長めのレスト、少ない回数の高負荷のウェイトトレーニングでもよい。

1週間のプログラム

1日目 休息日、またはごく軽い練習  
2日目 (1) ハイクオリティセッション (2) エアロビック(有酸素)
3日目 (1) アンエアロビ(無酸素) (2) アンエアロビ
4日目 (1) エアロビ&リカバー (2) ATP−CP&エアロビ
5日目 (1) アンエアロビ (2) アンエアロビ
6日目 (1) エアロビ&リカバー (2) ATP−CP&エアロビ
7日目 (1) アンエアロビ (2) アンエアロビ

※ハイクオリティ:レース・シミュレーションやハイスピードで行い、レースでのパフォーマンスを高めるセッション

※3日目の第(1)セッションは、前日のハイクオリティセッションの内容によっては、リカバーセッションにする

※ エアロビ&リカバー:無酸素に切り替わる境界以下のレベルで行うセッション

このプログラムは、オーバーロードを避け筋肉中のエネルギーを十分回復できるよう、多少変更しても構わない。どのセッションも最初から飛ばさず、負荷、時間、回数とも毎回ごとに少しずつ伸ばしていくようにすること。

ちなみにここに示した練習量は、これだけの量を一定期間続けられるだけの身体がすでにできている上位選手向けのものである。また、このプログラムに加えて、技術面の練習を入れたり、オフの時期にはいくつかのセッションの代わりに特別のセッションを入れたりもする。もっと下位の選手向けには、プログラム中の無酸素運動のセッションをいくつか省くか、技術面の練習に入れ代えて、最大限の進歩が得られるようにしよう。

シーズンオフ

シーズンオフでも上記同様のプログラムを適用するが、ATP−CPとエアロビトレーニングの割合を増やす。オフ中はレベル維持のためのアンエアロビを少し行い、本格的なアンエアロビトレーニングは、大きな試合の8〜16週間前ころから取り入れていくように。

ピークにもっていく調整

トップレベルでは、年間の2、3の大きな大会でベストコンディションとなるよう狙いを絞っていくのが大切である。すべての大会にピークをもっていこうとすればいくらでもできるが、シーズン全体で見てみると、貴重な練習時間の大部分がさして重要でない試合のあとの回復に割かれてしまい、無駄にすることになってしまう。結局大したことない結果しか出せないシーズンに終わることだろう。 したがって、主要な大会のときにレベルを最大限にもっていくようにしよう。そのためには出場しない大会もいくつかでてくることになり、気持的には面白くないだろうが、身体のためには必要なことである。

狙いとしている主要な試合が近づいてきたら、2週間から数日前(これは各自の状況、例えば試合の重要度や今までやってきた練習の度合いによって変わる)頃から練習量を少しづつ減らしてゆく。と同時に、練習中のレストも長めにとって、動き自体の質を高めるようにしよう。

あるいは、練習量をそれまでよりもわずかに減らし、1日あるいは1週間にやるセッション数を増やす。これは質を高めるのに非常に良い方法である。

リカバー(回復)

身体が十分に回復できるよう、無酸素と有酸素のセッションの日を交互に設けるのと同じように、1週間のうちには休息日を設ける必要がある。休息日は、無酸素セッションをやった次の日、かつ通常試合のある曜日の前の日にとるのが最適である。こうすることで身体と気持のリズムを作り、試合のある曜日に向けて小さなピークを毎週もっていこう。そしてそのピークの日にはハイクォリティセッション(レース・シミュレーションや他のハイスピードのセッション)を行うようにする(週間プログラム2日目の第(1) セッションのこと:訳注)。

ストレッチとマッサージも、練習や試合前のウォームアップと同様、リカバーに非常に重要である。また、練習直後は身体がエネルギーを最も必要とし、吸収度も高いので、栄養補給もリカバーにはに重要である。

テクニック(技術面)の練習

どんな形であれゲートを使ったセッションは、ある程度テクニックの練習セッションとなる。ゲートのあるコースを繰り返し漕ぐうちに、試合で用いるテクニックはほとんど自然に出るようになっていく。大事なことは、常に(どんなにきつく、プレッシャーのかかった状態でも)、考えるパドラーであることだ。

テクニックの練習は、フレッシュな状態で集中できるときに行うのが最も効果がある。したがって、通常エアロビのセッションまたは休息日の翌日にやるのがよい。よいテクニックとは、とにかく速く、試合の時に確実に出来るものでなければならない。テクニックの練習の目的とは、それぞれの動作の一瞬一瞬、そしてコース1本を通しての動きを把握する能力を高めることにある。狙いとしている主要な試合が来るまでに、自分の技術体力で何が可能で、何が可能でないかをはっきりと認識しておく必要がある。

スラロームのパフォーマンステスト

練習プログラムを実践しはじめたら、そのプログラムの効果が出ているかどうかを示すフィードバックが必要になってくる。練習により求めている結果を達成するためには、こうした情報をすばやく、正確に得る必要があるし、それは練習に対する気力を高めるためにも重要である。そのための特別のテストがある。

訳注「静水上で6メートル離して張った2つのゲートによる8の字コースで、ペースメーカーのシグナルがはいったカセットテープと脈拍計を使ったテスト」の実施と、その記録の評価方法についての説明が記述されているが、このカセットテープの入手が困難で、テストの実施が難しいためここでは省略する。

 

用語集

コンコーニテスト:血液のサンプルを採らずに、無酸素運動に切り替わる境界値を測定するテスト

有酸素のエネルギー供給:酸素の供給が十分な状況での運動エネルギー供給。乳酸は生成されない。

無酸素のエネルギー供給:酸素の供給が不十分な状況での運動エネルギー供給。乳酸が生成され、筋肉中に蓄積する。

乳酸(塩):酸素の供給が十分でない状況でブドウ等を酸化(分解:訳注)したときに生成される副産物。

無酸素運動に切り替わる境界値:この境界値を越えて運動すると、乳酸の生成が急速に起こる。

ATP:アデノシン3リン酸。高エネルギー化合物。

CP:クレアチンリン酸。筋肉細胞中の高エネルギーリン酸化合物。