この小冊子は、著者ボブ・ブーコックによって、インターネット デリバリーのために再編集されたものである。
前文 - FOREWORD
この小冊子はスラロームカヌーをはじめたばかりの人、そして定期的にコーチの指導を受けることやテストのための施設を使用することができない人のため
に書かれたものである。オーストラリアのトップスラロームパドラーの多くは、自分 だけで練習することからはじめ、試行錯誤によって成功するための最も良い方法を学
んだのです。良いコーチの指導を受けることに代わるものはないが、初心者の多くに とってそれは不可能である。これらのセルフ・ヘルプ・ノートにより、始めたばかり
のパドラーは、彼らにも簡単にできる多くの単純なトレーニングやテスティングルー チンを練習し、それによってゴールに到達することができる。これはスポーツ科学の
コースではないが、簡単な原理をいくらか知っていると、なぜ特別なトレーニング・ ルーティンを行わなければならないのかということがよくわかるだろう。このハンド
ブックには、スラローム・トレーニングのためのいくつかの簡単なガイドラインと、 トレーニングによってどれくらい能力が向上したかを見るためのいくつかのテストが
含まれている。
筆者について - ABOUT THE AUTHOR
ボブ・ブーコックはタスマニアカヌー協会の会長であり、オーストラリ
アカヌー連盟のスラロームとワイルドウォーター委員会の議長である。彼はオースト ラリアのスラロームカヌーを向上させることに非常な関心を寄せている。ボブはレベ
ル2のスラロームコーチであり、タスマニアカヌー教育委員会の現役のインストラク ターである。栄養がくしゃとしてタスマニアスポーツ研究所のコンサルタントとして
も活動しており、また、1989年からは、オーストラリアスラロームチームのジュ ニアとシニア両方の監督も行っている。
ジャスティン・ブーコックは8才の時にスラローム競技を始めてから、確実にその
パドリング能力を向上させてきた。1993年の世界ジュニアC1チャンピオンであ り、トップクラスのオーストラリアのC1パドラーとして、たとえ日常的にコーチの
指導を受けることが出来なくても、どんなことが可能かということを証明している。 1996年のアトランタオリンピックでは彼はオーストラリアただ一人のC1パドラ
ーであった。この小冊子の中の多くのアイディアは、自分で練習しているジュニア選
手にとって役に立ち、かつ適切であると、彼が考えたものである。
スラロームパドラーとして成功するには以下のことが必要である:
これらの要素は特殊な方法で上達させなければならない。というの
も、他のスポーツで行われるトレーニングルーティンはほとんど役に立たないから である。心臓や肺や筋肉といった、運動するときに使われるからだの組織を、ほん
の3分間しか続かず、上半身の力強さとと柔軟性と耐久力を多く使い心身の協調を 大変必要とすることのために鍛える必要がある。訓練により体に負担をかけること
によって、体はより大きい負荷にも対応できるように順応していくのである。だか ら、多くトレーニングすればするほど、体はより順応していくというのは理にかな
ったことである。また、その負荷が特殊なものであればあるほど、順応度合いもよ り特殊なものとなる。
Improvement of performance with training
3分間のレースの間に、運動している筋肉は3つの異なった種類の エネルギーを使う。
運動が激しくなるにつれて心拍数も増加する。低い心拍数での適度な運動は筋肉や心臓にほとんど負荷をかけないので、あまり価値がない。運動の激しさが増すにつれて負荷も大きくなり、よってそれが一定の時間に及べば、有酸素エネルギーシステムが発達する。もっと激しい運動により無酸素システムが適応し発達していく。
運動状態 | 脈拍 | MAX% | 効果 |
---|---|---|---|
休憩時 | 50-70 | 無し | |
軽度 | 70-130 | -65 | ほとんど無し |
中度 | 130-150 | 65-75 | 有酸素システム |
強度 | 150-170 | 75-85 | 有酸素&無酸素システム |
最強度 | 170- | 85- | 無酸素システム |
どんな中度または強度の練習でも、もし20分以上持続するならば、有酸素状態でのパフォーマンスを向上させるのに有効である。そのような継続的な練習には、静水でのパドリング、サイクリング、ジョギングのようなものがあり、全身状態の維持と改善のためにほとんどの運動選手がシーズン初めに行っている。
フラットウォーターにて
5×4分間 ゲート有りもしくはゲート無し 85%の強度。4分間の 休憩
3×10分間 ゲート有りもしくはゲート無し 80%の強度。5分間の休憩
2×20分間 ゲート有りもしくはゲート無し 75%の強度。5分間の休憩
フラットウォーターまたはホワイトウォーターにて
5×2分間 ゲート有りのパドリング 85%の強度。1分間の休憩。3セット
4×1分間 ゲート有りのパドリング 85%の強度。1分間の休憩。5セット
3×4分間 ゲート有りのパドリング85%の強度。2分間の休憩。2セット
ピラミッド:40秒間のコースを選び、5ラップ、4ラップ、3ラップ、2ラップ、1ラップの順に行い、その後で1ラップ、2ラップ、3ラップ、4ラップ、5ラップを行う。休憩時間は運動時間の半分としなくてはならない。
有酸素状態でのパフォーマンスがよくなるにつれて、同程度の運動に対して、心臓と血液循環のシステムが順応し改善されるので、同程度の運動により与えられる負荷は少なくなり、より少ない働きで間に合うようになる。即ち、心拍数が低下する。
よって、有酸素状態でのパフォーマンスは、最高ではないがある程度の強度で約1分間パドルするようなフラットウォーターでのサーキットによって測ることができる。そのようなサーキットを5回行った後で心拍数が落ちついており、あごの付け根近くの頚動脈に2本の指を当てて測ることが出来なくてはならない。数週間のトレーニングの後、同時間で同程度の運動量に対して心拍数が低下したならば、持久力の改善に成功したということである。毎回の評価の時に、パドリングの速さとサーキットのタイムを同じにすることが大切である。
Test | Date | Final Heart Rate |
無酸素もしくはスピードトレーニング - ANAROBIC OR SPEED
TRAINING
スラロームでは、良い技術と、特別な筋肉の力と、優れた無酸素
状態でのパフォーマンスがかみ合うことによってスピードをあげることができる。 無酸素状態でのパフォーマンスは無酸素システムに負荷をかけることによって向上
させることができる。それは2、3分間の激しい(90%以上の強度)運動を何回 も繰り返すことである。これはスピードプレイもしくはインターバルトレーニング
によって成し遂げることができる。
SPEED PLAY
スピードプレイは、フラットウォーターもしくはホワイトウォータ
ーで2ー3分間全速力でパドルし、その後それよりも短い時間、1ー2分間、ゆっ くりとパドルすることで練習できる。
INTERVAL TRAINING
インターバルトレーニングは約95%の力で、時間を15秒から4
分間までいろいろ変えて、その間の完全に回復するための時間もいろいろ変えてパ ドルすることで練習できる。これらのセッションはフラットウォーターでもホワイ
トウォーターでも良いし、ゲートを用いても用いなくてもかまわない。
2ー3分間のより短く激しいパドリングは非乳酸無酸素システム系 を発達させて概してより長い回復時間を必要とする。
5ー6分間のより長いパドリングに、同じくらいもしくはそれより
短い休憩時間組み合わせることで有酸素システムと乳酸無酸素システムの両方を発 達させることができる。
フラットウォーターでのスプリント
8×150秒間 95%の強度 4分間の休憩
3×90秒間のパドリング ゲートあり 90%の強度 2分間の休憩 3セ ット
4×120秒間のパドリング ゲートあり 90%の強度 2分間の休憩 2 セット
6×20秒間のパドリング ゲートあり 100%の強度 90秒間の休憩 3セット
スピードがどれくらい速くなったかを調べるには、3分間に8の字 形のサーキットを何回まわることができるかを数えればよい。それにふさわしい8 の字形のサーキットは、フラットウォーターに10メートル離れた2本のゲートを 釣り下げてつくる。もし毎回同じにできるのならば、ほかのルーティンを使っても よい。
Test | Date | Number of Circuits |
あらゆる種類の筋肉トレーニングは、筋肉に負荷をかけ、筋肉がそれに順応することによって筋肉を鍛えていく。スラロームカヌーではパドリングによって上半身の筋肉、特に腕、肩、背中、胸の筋肉が鍛えられる。これらの筋肉は次のような抵抗訓練によってより大きい負荷をかけることができる。たとえばアップストリームでのパドリング、バケツを引っ張ること、ローイングマシーンを使ったトレーニング、ウェイトトレーニングなどである。ウェイトトレーニングは力強さや持久力、瞬発力を鍛えるために運動選手達の間で広く使われているが、体を壊さないようにするために、特に若いパドラー達は、専門家のアドバイスのもとに行わなければなければならない。
次のような運動は抵抗としてからだ自体の重さを利用しておりより安全である。
上体そらし(チン-アップ,chin-up)はうで、背中、肩の筋肉を鍛える。
上体そらし(チン-アップ - Chin-ups)はうで、背中、肩の筋肉を鍛える。
腕屈伸(ディップ - Dips)は腕と肩の筋肉を鍛える。 腕立て伏せ(プッシュアップ - Pushups)は腕と肩の筋肉を鍛える。
腹筋(アブドミナル - Abdominals)は腹の筋肉を鍛える。
それぞれの運動の間に2ー3分の休憩をはさみ、疲れるまで繰り返さなくてはならない。成果の程は、繰り返しできる回数の増加によって知ることができる。最も良い成果を出すには、これらの抵抗運動は集に2ー3回行う必要がある。
スラロームカヌーは柔軟性(特に上半身の)が向上するにつれて上達する。次のような運動によって、柔軟性を改善することができる:
柔軟性の評価 - Assessment of flexibility The "Sit and Reach Test"
(座って前屈伸するテスト)背筋と後部大体筋をのばす能力を測ることができる。
床に座ったまま足を床につけてしっかり伸ばし、3秒間腕と手を前方に伸ばし、板の端からどれくらいまで届くことができるかを測る。板の手前の時はマイナスで、板の向こうの時はプラスとし、単位はミリメートルとする。 The "上体反らしテスト"
では背中の柔軟性を測ることができる。足を重いものの下にしてうつ伏せになる。両手を首の後ろにして、胸と頭を3秒間床から起こす。そして、あごから床までの距離を測る。
スラームカヌーは基本的には熟練した技術を要するスポーツであり、力強さや持久力やスピードは助けにはなるが、それに代わることはできない。
スラロームの技術は徐々に身につくものであり、それには時間がかかる。走ることを学ぶ前に歩くことを学ばなければならないように、この場合はホワイトウォーターでのスラロームレースの前にカヌーを漕ぐことを学ばなくてはならない。この小冊子では、読者は基本的なカヌーイングとホワイトウォーターでの技術を十分に身につけていることを前提としている。 フラットウォーターでのゲートトレーニング - Flat Water Gate
Training
ほとんどのカヌーイストは頻繁にホワイトウォータで練習することはできないし、トレーニングゲートを吊り下げることができるフラットウォーターならば、それがどんなところでも利用しなくてはならないだろう。これらは洗練されたものである必要はない。2本のドエル棒、もしくはプラスティックの水道管で十分である。水からの高さとその位置を簡単に変えられるように作っておかなくてはいけない。多いに越したことはないが、最低でも6つのゲートが必要である。
フラットウォーターでのゲートスキルの評価 - Assessment of Flatwater Gates
Skill 所要時間約1分間のサーキットを使いなさい。そして、それには少なくとも2つのアップストリームゲートが含まれ、他にもできるだけ多くのゲートを並べること。
このサーキットをできるだけ速く3回行い、普通の方法でタイムとペナルティーを測りなさい。(ゲートをミスしたときは50秒、ポールにぶつかったときは5秒) 総てのタイムとペナルティーを合計しなさい。
Time Time Time 時がたち技術が向上するにつれてトータルスコアが良くなっていくだろう。毎回のテストにおいてサーキットの規模を同じにすることが大切である。 ホワイトウォーターでのゲートトレーニング - Whitewater Gate
Training
以上で述べたトレーニング方法はホワイトウォーターでのトレーニングにもあてはめられる。ホワイトウォーターでのトレーニングは以下のような形式を取ることができる: *川の特徴を読み取る技術や流れにカットイン、カットアウトすることやフェリーグライディングを上達させるためのリバーツーリング。
*船を扱う技術を上達させるためにストッパーやエディーやウエーブでプレイすること。
*ゲートに入ったり出たりする技術を上達させるためにゲート2ー3個の配列で行う練習。通常エディーゲートで上流または下流で行う。
*ゲート間の最も速いラインを上達させるためにゲート4ー6個の配列で行う練習
*最も良いラインとスピードを改善するために、一つのゲートポジションに殆ど変化をつけないゲート4ー6個の配列で行う練習
*特殊な配列でのスムーズな動きを上達させるためにゲート10ー13個の配列(1/2ラン)で行う練習
*レースの技術を上達させるためにゲート20ー25個の配列(フルラン)で行う練習 ホワイトウォータートレーニングの評価 - Assessment of Whitewater
Training
最も正しい評価はレースの日にどれだけのことが出来たかということである。ホワイトウォーターゲートでの継続的な上達を評価する良い方法は無い。なぜならば特定のゲート配列を練習すればするほどそれに対しては上達するからである。
一般的な練習を行うときには以下のことに気をつけなくてはならない。 *スラロームで必要な要素、即ち、力、速さ、技術、持久力の総てを上達させる。
*量(時間)と激しさのバランスが必要。例えば、1日激しい練習をしたら次の日は軽い練習にするなど。
*技術を上達させることと身体的要素を上達させることのバランスを取ること。
*適切な休息を取ること。1週間に1日の休みがふさわしい
*継続時間があまり長すぎるとトレーニングの効果が急速に失われるので、約1時間を越えるようなトレーニングはふさわしくない。
*間をおくよりも続けて行う方が良い。即ち毎日ということ(休息日は除いて)
*トレーニングに飽きたり気抜けすることを防ぐために変化をつけること。
*ウォームアップとウォームダウンをふくむこと。 個人セッション - Individual Sessins
これらは、ウエイトセッションのような特殊なものになる可能性がある。またはトレーニング例のいくつかの要素を含んでいる。
5分間のウォームアップ
10分間のショートスプリント
15分間のフラットウォーターでのゲートテクニック
15分間のパドリング(一生懸命に我慢強く)
10分間の力をつけるためのトレーニング(例えば、パワーテイクオフ)
5分間のクールダウン
オフシーズンにはほとんどのカヌーイスト達は、リバーパドリングや他のスポーツ(例えばジョギングやサイクリング)をすることで彼らの全体的なアエロビックフィットネスを維持することに専念する。競技シーズンが近づくと、トレーニングプログラムは技術やスピードを上達させるためのものになる。
eg.計画表は前以てトレーニングを組み立てるのに役立つ。また、トレーニング日記はそれぞれの分野でのトレーニングの進み具合を記録するのに有効である。
例としてナショナルチャンピオンシップで見てみると、このレースに状態を最好調にもって行くにはトレーニングを3つのシーズンにわけなくてはならない。
プレシーズン - Preseason:
トレーニングの初めから3ケ月前までの期間。この期間は主として有酸素(アエロービック)システムを強化するためのトレーニングなので、必ずしも水に入る必要はない。
毎週のセッション:1x乳酸無酸素 - Lactic anaerobic
1x非乳酸無酸素 - Alactic anaerobic
1x技術 - Techinque
2?3x有酸素 - Aerobic
2?3力強さ(体力)Strength
増強期間 - Building :
3ケ月前から3週間前まで。この期間は主として乳酸(ラクティック)システムを強化する。可能な限り多くの時間、水のなかで、特にゲートを使った練習をするべきである。
毎週のセッション:2ー3x乳酸無酸素
1x非乳酸無酸素
1x技術
1x有酸素
2?3力強さ(体力)
競技準備期間 - Competition:
最後の3週間。この段階ではスピード面と技術面に重点をおいて、非乳酸システムを発達させるための練習をする。レースの前の日は休息日とする。
毎週のセッション:1x乳酸無酸素
3x非乳酸無酸素
1x技術
1x有酸素
激しいトレーニングの間の筋肉の主たるエネルギー源はグリコーゲンである。この種のエネルギーは約1時間すると使い果たされてしまい、筋肉疲労の原因となる。このため、激しいトレーニングセッションは普通1時間以上継続して行わない。このグリコーゲンは次のトレーニングセッションの前に補っておかなければいけない。そしてそれには5、6時間もしくはそれ以上必要である。炭水化物や澱粉、砂糖を多く含む食事は、グリコーゲンの速やかな回復や筋肉中に高レベルのグリコーゲンを維持することの助けとなる。また、トレーニングのすぐ後に炭水化物を取ることはグリコーゲンのより早い補充の助けとなる。
以上のことからカヌーイストは、パンやパスタやご飯のような穀類、乾燥もしくは生の果物、生もしくは冷凍の野菜(特に根菜類)、豆類を十分に食べなくてはいけない。これらの食物は、彼らが必要とする蛋白質、ビタミン、ミネラルを十分含んでいるのはもちろん多量の植物性繊維も含んでいる。 体重の評価 - Assessment of Weight
カヌーイストの体重に対する力の比率は大切である。もしパドラーがオーバーウェイトでかつ速く漕ぐのに十分な力がないのであれば、スーパーライトボートを使う利点はほとんど無い。
オーバーウェイトとは一般的に脂肪が多すぎるということである。我々の体の脂肪の量はカリパスで皮膚を挟んでみることで簡単に測ることができる。しかし、これらは高価であるし正確に知るためには専門家の測定が必要である。
オーバーウェイトかアンダーウェイトかを調べる、だいたいではあるが簡単な方法はボディ・マス・インデックス(BodyMassIndex-体重(kg)を身長(m)の2乗で割る)を使うこと、または次のチャートを使うことである。
Date
Dips
Reps
Chins
Reps
Pushup
Reps
Abs
Reps
柔軟性のトレーニング - FLEXIBILITY TRAINIG
Date
Sit & Reach
Distance
Trunk Ext
Distance
技術トレーニング - SKILL TRAINING
多くの異なった形のコースを工夫することで、ゲートを通る時や色々なストロークを使う時の技術やスピードを身につけることができる。(スイープやバウラダー/ドローストロークのコース例は次のイラストのとおり。)
Date
Circuit 1
Pens
CirOAcuit 2
Pens
Circuit 3
Pens
TOTAL
トレーニングプログラムの作成DEVELOPPING A TRAINING PROGRAM
トレーニング日記 - Training
Diaries
トレーニング中の食事 - TRAINIG DIETS